ホームシアターに至る病、そして

思えばアンプというものがなんなのかさえわからなかった少年時代、オーディオ好きの祖父に連れられて初めて行った北九州市のオーディオフェアで出会ったサラウンドシステムの音に魅せられたあの時から、いつかはホームシアターをという夢を抱いていた。

その出会いから数年、いわゆる薄型テレビが台頭してきてバーチャルサラウンド技術も発達してきたあたりから、それを組み合わせてリビングで楽しめるホームシアターというものをメーカーが提案しているのを見て、コレジャナイ感をすごく感じていた。シアターというからにはやはりせめて5.1ch分のスピーカーと、それが無理なく置ける広い部屋、そしてなによりプロジェクタ、しかもスクリーンは100インチ以上でなければと思っていた。

社会人になって二年目か三年目のあたり、孫ニュースサイトがインターネットを賑わせていた時代に、今は亡きSANYOブランドのLP-Zシリーズという液晶プロジェクタがアニオタ界隈で話題になっていた。圧倒的なレンズシフト量とズーム倍率を備えた機種で価格も十万円台と手の届く範囲だったが、独身一人暮らしの狭小賃貸アパートという環境にどうにも踏ん切りがつかないまま、LP-Z5が発売されるあたりまでアニメやらゲームやらが大画面に映し出された画像をスレで追いかけながら、いんたぁめっつぉのレビュー記事を穴が空くほど読んでいた記憶がある。

そうこうしてる間に、僕も結婚してそろそろ三十路が見えてきて、まぁホームシアターとかわりと無理な状況になってきたなーと思っていた矢先のことだった。僕は『ガールズ&パンツァー』というアニメ作品に出会ってしまった。果敢に戦車道に取り組む彼女たちの勇姿を見た僕は「あぁ、これは大画面で見たいめう」と、そうリビングでつぶやきながら思い立ったのである。

思い立ったが吉日ポチったという言葉があるが、そうは問屋が卸さないのが、ホビボックスと妻帯者の難しいところである。幸いにして我が家には12畳の空き部屋があるが、しかしながら僕に備品購入の権限はなかった。そこでまず嫁さんに稟議を承認してもらえるよう、一週間かけてじわじわとホームシアター構築したいしたい病をアピールする。途中、ゴールデンウィークの間、語尾に「めう」とつけてずっと喋るブームがきてたんだけど、嫁さんが泣き出して本当に悪いことをしたなと思うアクシデントが発生しためうが、どうにかこうにか、プロジェクタと5.1ch分のスピーカーを手に入れ、今は120インチの大画面で戦車が枯野をかけ廻っている。

もしもプロジェクタ導入を検討している同志がいるのなら、画質なんて気にする必要はない、画面の大きさこそ正義だと言いたい。そして同時に、リアルサラウンドシステムを組んでほしい。ペンは剣よりも強し、音と映像もまた然りだと、そう再認識させられたからである。大画面で見たいと思っていた衝動が次の日にはもっと高音質で聴きたいに変わっている。まったく、気がついたらあたり一面を沼地に囲まれてはいるが、パンツァーフォーの精神でこの深みにはまってゆくのであります。