下関でずっと借りぐらししてたの

初めてひとり暮らしを始めたのは二十二歳の秋だった。

中二から家族みんなで暮らしていた一戸建ての借家を大家さんの都合で立ち退くことになって、ちょうど父親の煙たさ加減もピークだったので、せっかくだからと実家を出てひとり暮らしを始める決意をした。

愛車のトヨタスターレットに荷物を積んで友達と、そして父親の運転する軽トラで向かった先は新下関駅近くのアパートで、十二畳のワンルームだった。家賃は五万くらいでフローリング張りの非常に綺麗な部屋だった。冷蔵庫は実家で使っていた小さいものを拝借した。ヤマダ電機で洗濯機と電子レンジを買った。通販で炊飯器とティファール電気ケトルを買った。テレビはMonsterTV3 Liteが頑張ってくれた。近くのドラッグストアで安いフライパンを買った。トースターは祖父が買ってくれた。リサイクルショップで友達が見つけた二千円の大きなソファベッドを買った。そうして引越しを手伝ってくれた友達と初日から騒いだ。トイレットペーパーは便意を催した友人が買ってくれた。それから毎週のように仲間が集まっては宅飲みで騒いだ。友達の誕生日にバースデーソングを全員で熱唱したら次の日に管理会社から電話がかかった。僕はシラを切りとおした。

人生においてぜひ経験しておきたいことに「ひとり暮らし」がある。「就職」と「結婚」と「育児」もそうかもしれない。とにかく僕は、ひとり暮らしをきっかけに両親と家族と実家のありがたみを思い知った。疲れて帰宅しても夕食は自動的には出てこない。洗濯物は洗濯機に入れただけでは片付かない。テレビを見ていてもひとりで笑うしかない。一日中アニメを見ていてもゲームをしていても誰にも文句は言われないが、しかし会話もない。

結局のところ、実家を飛び出してわかったことは、家族みんなで一緒に暮らして親孝行をするのが一番いいという結論だった。でもそこに至るまでの過程が重要で、自分で稼いだ金で生活をするという体験が大切で、人間社会って一日何もしなくてもお金がかかるんだっていう実感が必要で、なんていう話をこれから先の僕がビール片手に真剣十代に語ったりするかもしれないと考えると恥ずかしい。

まぁ、ひとり暮らしのメリットなんて部屋中どこでもオナニーとかラブホ代が浮くとかそんな感じでいいと思う。でもティッシュ代が意外にかさむ。