金曜日の特殊浴場に消えていくのであります。
「今日ね! 今日ね! あなたの悪口を風の便りで聞かされたの! あなたはそんな人じゃないのに! ものすごく悔しいわ!」
職場から帰宅してきた僕に、嫁さんは開口一番そんな調子でヒステリックに喚きだした。
普段の僕ならば、月が出た出た月が出たとスルーするところなのだが、困ったことに、僕にはその"悪口"とやらに心当たりがあって、嫁さんがなにを聞かされているのかもだいたい察しはついていた。
陰口という形で伝播してしまった誤解に、ですよねーなんていつもの調子でみやす暢気に構えながら、でも君が怒ることではないでしょうよと言ったら
「私はあなたが大好きだから! だから怒ります!」
と、なんの迷いもなく、当たり前のように嫁さんが言いやがって、あぁ、僕はダメだなぁと、今回もそう思い知らされた。
僕がシニカルにジャブを打っても、彼女はいつも真正面からコークスクリューで僕の魂を抉りにくる。僕のために本気で怒ってくれる嫁さんに、僕はただただ彼女のために生きようと、そう誓いながら金曜日の特殊浴場に消えていくのであります。