ニコニコ動画に番組を持つということ

※本稿は2008年に他所で公開した記事を修正して掲載しております。

 一年くらい前、まだニコニコ動画に大量のアニメ作品がアップロードされていたころ、ボクは人気動画の遅すぎるダウンロードに耐えかねてプレミアムに登録した。それから数ヶ月してニコニコ動画にもアニメ規制の波が押し寄せ、TVアニメやそれに関連するMAD作品は一部を除いて大幅に削除された。当時、アニメを視聴できないニコニコプレミアムに意味はないと解約したユーザーは多かったのではないかと思う。そうしてTVアニメという大きなコンテンツを失ったニコニコ動画に新しくやってきた波は、初音ミクのオリジナル作品とそれに派生する歌ってみたシリーズや演奏してみたシリーズや踊ってみたシリーズだったように思う。これらはもちろん初音ミク発売の直後から注目されてはいたが、TVアニメがなくなったことによってランキングでは目立つようになったと思う。現在のニコニコ動画には初音ミク、東方、アイマス、演奏してみた、手描きMADなどなどクオリティの高いオリジナル、または二次創作が連ねている。

 ニコニコ動画を見る場合はランキング上位の動画を視聴するスタイルが一般的だと思う。ボクはニコニコ動画当初からランキングを追った視聴スタイルだったが、ある作品を見てからはそのスタイルが変わったように思う。その作品というのは『【麻雀落ちゲー】極落雀 全役達成への道 』という、いわゆるゲーム動画だった。通常、ゲーム動画というのはゲームのプレイ風景をそのまま動画にしてひとつのゲームをエンディングまで見せる手法が多い。しかしながら今回の動画はゲームのエンディングという終わりではなく、自らにノルマを課しそれに向けての過程を動画にし視聴しやすいよう10分程度で区切り、ときにアップロード者の喜びや苦悩をテキストにして動画内に表示するというドキュメンタリーテイストを持った編集方法であった。そしてこの記事を書いている現在もまだ、この動画シリーズは未完である。

 この動画を見たときにボクは、なるほどそういうことかと思わされた。

 現在のニコニコ動画のランキング上位を占めている動画はいつ見ても素晴しいクオリティ、または素晴しいネタセンスを持つものばかりであるがそれ故にその動画は作成者にも視聴者にも「作品」にしかなりえないのである。しかし今回紹介した動画は「作品」ではなく「番組」ではないかとボクは考える。初音ミクのオリジナル曲を多数アップロードし、そしてそのどれもが素晴しい作品である人は多い。他の動画シリーズでも同じことが言えるだろう。けれどそれはその多数の動画のどれかをひとつずつ見ていく完結した作品、完成されて出力された動画である。一方TVアニメのどれか一話を見ただけではよくわからないように「番組」である動画は好きな漫画雑誌の連載を待つように作成者とともに長く楽しめる動画である。ニコニコ動画に番組を持つということは音楽が作れなくても絵が描けなくても歌えなくても踊れなくてもニコニコ動画にコンテンツ作成者として参加し、また視聴者もどこか遠くのすごい人が作った作品という見方ではなく、どこか親近感の沸いてくるスタイルのひとつではないだろうか。もしも今回紹介した動画が「達成しました」という過去の出来事を一本の動画にしたものであったのならば、ボクがここまで感動することもなかったように思うのである。