『スラムオンライン』

スラムオンライン (ハヤカワ文庫 JA (800))

スラムオンライン (ハヤカワ文庫 JA (800))

Aボタンをクリック。ぼくはテツオになる―現実への違和感を抱えた大学1年の坂上悦郎は、オンライン対戦格闘ゲーム“バーサス・タウン”のカラテ使い・テツオとして、最強の格闘家をめざしていた。大学で知りあった布美子との仲は進展せず、無敵と噂される辻斬りジャックの探索に明け暮れる日々。リアルとバーチャルの狭間で揺れる悦郎は、ついに最強の敵と対峙するが…。新鋭が描くポリゴンとテクスチャの青春小説。

ゲーマーのゲーマーによるゲーマーのための小説。舞台は東京都新宿区、そしてバーチャファイターオンラインとでも言うべき仮想空間、このリアルとバーチャルの対比で物語は進んでいく。内容は3D格闘ゲームのそれであるが、なぜ僕たちはコンピュータゲームをプレイし熱中するのかという問いに対する翻訳的解釈は格ゲーマーならずとも共感できる部分が多いのではないだろうか。

一昔前は、それでもまだゲームセンターというものに活気があって格闘ゲームSTGも流行っていた。ゲーセンにいけばいつもわいわいと僕より年上の高校生やら大学生やらが遊んでいて、みんな自分より強くて、その輪の中に入りたくて必死にコンボを練習したりした。それから家庭用ゲーム機の進化、ブロードバンドの普及などによって、スラムオンラインに描かれているようなわざわざゲーセンでプレイしなくても家で遊べるという状況になっていった。格ゲーもSTGもよりコアなユーザーへ訴えかけるマニアックなものになっていった。そうして路地裏のゲーム少年の闘争の場所はゲーセンからインターネットに変わり、ネットゲームに明け暮れたのだと思う。

僕がコンピュータゲームに求めていたものはコミュニケーションなんだろう。坂上悦郎もそうだったのかもしれない。