月経二日目

「おなかがいたい」

ときどき嫁はそんなことを言い出す。ようするに月経のことである。その苦痛がどれだけのものか男である僕には一生わからない。相当にヤバいというのはなんとなくわかるし、実際、相当にヤバい。

我が家ではまず月経の詳細な報告からはじまる。もうすぐきそうだとか、今日きただとか、血が出てきただとか、お腹いたいいたいだとか、薬は何時間前に飲んだだとか、あなたもこの苦しみを味わえとか、家にいる間は逐一報告される。月経初日から三日にかけてその傾向が強く、四日目以降は特に普段と変わらない生活に戻る。

月経中はとにかく嫁の精神が安定しない。よくイライラした人に対して「生理かよ」とつっこむ場面があるが、次元や質が違いすぎていてジョークにもなっていないことに気付くべきである。嫁の感情が全く読めない。なにか下手なことを言ってしまうと途端に怒ったり泣いたりしてしまうので、扱いには細心の注意を払う。

月経中は甘いものが食べたくなるらしい。深夜でもかまわずホットケーキを焼いて「太っちゃうからバター控えめ♪」とか言ってもぐもぐ食べる。甘いものがないと永遠に「ケーキ食べたい!」を繰り返すので、お菓子、特にチョコは常備するべきである。

月経中は睡魔がすごいらしい。軽い不眠症を抱えている嫁であるが、このときばかりは布団にはいって一分もたたない内に眠ってしまう。と思ったら、手を握ってくれだの言い出す。嫁はかわいい。

僕が夫として嫁にしてあげられることはさっさと子作りして毎月の苦しみを少しでも緩和してあげることなのだろうけど、これがなかなかそううまくはいかない。結婚して一年とちょっとになる。避妊はしていない。嫁さんはそろそろ焦りだしている。最近になって基礎体温を計り出したようである。僕は子供が出来ないことに対して楽観視している。

テレビで芸能人のできちゃった結婚を見ると、なんでお前らが先で筋を通してる僕があとなんだよとよくわからない感情が沸く。僕の世界では「中だしだめぇ、赤ちゃんできちゃうぅ」とか信じてきた思春期は嘘で、今まで僕が払ってきたコンドーム代をそろそろ返してもらいたい心境である。

そんなことを考えていたら嫁がむくりと起きて「よだれいっぱいでた。ふいて。」とか言ってきた。僕は嫁と結婚できて幸せであるといつも思っている。