ゼロハチサン

仕事柄、金融機関の窓口に書類を持っていくことが多い。手続きが終わる間の待ち時間、ソファに座って暇つぶしにとサイドテーブルに置いてある雑誌に手を伸ばしパラパラとやることが多いが、そこに各銀行の特色が見えて面白い。山口銀行に置いてあるのは朝日やダイヤモンドなどの週刊誌が中心で、最近はそれに加えてアエラを置くようになった。西中国信用金庫は女性自身とレタスクラブでやたらとフェミニン。西京銀行山口県信用組合は雑誌の変わりにテレビで、下関農協はラジオと、そんな具合だ。

いつものように山口銀行本店営業部二階の上等なソファに座りながらサイドテーブルの獲物を物色していたら、やたらとアーティスティックな表紙が目に留まった。それは下関市が発行している無料の情報誌で『083(ゼロハチサン) −うみ やま たいよう−』という含蓄がありそうでヘンテコなタイトルだった。フリーペーパーなんてものは地域のお得な情報が掲載されているだけだと思っていたけれど、ゼロハチサンの紙面には僕が生まれ育ち、そして今も暮らしている下関の魅力が綺麗に切り取られ語られていた。下関市の割高な市民税の一部がこれに消えているのならそれも仕方がないと思わせる納得の仕事ぶりだった。

今日、市役所でバックナンバーを貰ってきた。二十六歳の僕が見てきた下関市の風景や町づくりは決していいものとは思えなかったが、それでも僕は郷土愛というものを再認識して、昨日と同じ景色が今日は違って見えるなんてそんな当たり前の幻想を抱くのだろう。